「ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築」
圧倒的に独創的な作品群を目の当たりにできる「ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築」(六本木・森美術館《東京シティビュー》)。
前回は、筆者が訪れたことのある作品を中心にご紹介した。
だが、今回訪れた一番の目的はもちろん万博関連の展示だ。
近代オリンピックが万博から生まれた、という意味では2012年ロンドンオリンピックのための聖火台のデザインも万博関連とも言えないこともないだろう。
しかし、今回の筆者的なメインは「上海万博英国館」である。
2010年上海万博
2010年に開催された上海万博。
この万博は、5年に一度開催される大型の万博「登録博」としては、2005年「愛・地球博」の次に開催された万博である。
そのテーマは「ベターシティ、ベターライフ」だった。
会期は2010年5月1日~10月31日の184日間。
入場者数は「万博史上最多」の7308万4400人(それまでの最多は1970年大阪万博の6421万8770人。会場面積は「万博史上最大」の523ヘクタール、参加国・国際機関数も「万博史上最多」の190カ国・56国際機関。
また「『発展途上国』で開催された最初の万博」という肩書きもついた。
1日最大入場者数はこれまた「万博史上最多」の103万2700人(これまでの最多は1970大阪万博の83万5832人)。
まさに万博史上最大、最多のオンパレードの万博だった。
この万博史上最大最多の万博の中で、ひときわ異彩を放っていたのが「英国館」だった。
一度見たら忘れられないデザインである。
筆者も上海万博は仕事上の担当ということもあってしばしば訪れた。
しかし、今になって、またあらためて何度見てもこのパビリオンは異彩を放っている。
「種子聖殿」
筆者が万博亭に秘蔵している中国語版「中国2010年上海世博会官方图册」(「2010年上海万博公式カタログ」上海世博会事務協調局 編)という分厚い冊子の「英国館」のところには次のようにある。
*
主題 传承经典,铸就未来
位置 C
国家館日 2010年9月8日
*
「主題」とはつまり、英国館の「テーマ」のことであり、これは元々の英語の“Building on the Past, Shaping Our Future”の中国語訳である。
日本語に訳すとすると、この中国語は「古典を受け継ぎ、未来を築く」ということになり、英語から訳すと、「過去の上に構築し、未来を形作る」という感じになる。
パビリオンの位置はヨーロッパの国家パビリオンのゾーンであった「C」区画、ナショナルデーは9月8日、ということである。
そして、中国語の解説が続く。以下筆者が翻訳してみる。(原文は文末に表記)
*
英国館は、自然の役割に人々の関心を集め、都市の未来が引き起こす社会的、経済的、環境的課題を解決するために、伝統と自然をどのように利用できるかを考えることを目指す。
パビリオンの核となる「種子聖殿」のタンポポのような形とユニークな創造性も、テーマを巧みに解釈しているものである。
外部は6万本以上の、いたるところに伸びて揺れるアクリル棒の触手で覆われている。
日中は触手が光ファイバーのように自然光を伝えて内部を照らし、夜になると触手に組み込まれた光源が建物全体を照らし、人々の目を引く独特な未来都市となる。
パビリオンの内容は「グリーン都市」「オープン都市」「種子聖殿」「活気ある都市」「オープンな公園」などを含む。
「グリーン都市」は、英国の 4 つの主要な首都の都市景観、緑の植物、水景と建築の融合を示している。 「種子聖殿」は、英国キュー・ガーデンのミレニアム・シード・バンクから抽出されたさまざまな種類と形状の種子を展示している。
「活気ある都市」は生きた植物や空想の植物が多く展示され、英国の創造性と高い技術力を表現し、自然と調和して発展し、技術革新に富み、豊かになる未来の都市を想像させます。」
*
ということになる。
一方、今回の展覧会の解説によると、次のようにある。
*
2010年上海万博の英国館デザイナーに採用されたスタジオは、そのデザインで万博の出展パビリオン上位5位に入るよう求められた。限られた予算とサッカー場ほどの広さの会場でそれを実現するため、展示内容を重視する一方で、万博で疲れた人々の感性を癒やすような、印象的な外観の建物をひとつだけ建てることにした。
展示では、良く知られた英国の特徴を総花的に見せるよりも、英国が先駆けてきた都市の公園や庭園といった歴史、また植物研究の伝統に注目し、世界最大の植物保護事業である王立植物園キューガーデンのミレニアムシードバンクにその着想を得ることとした。パビリオンの外観には、まるで風になびく背の高い草のような、優しく揺れる動きを取り入れ、コンピューター・モデリングと現場での調整を経て、そのしなやかな「毛」が中心にある立方体の周りを覆った。7.5メートルのアクリルの細い棒6万本を通過する光が内部空間を照らし、その棒の先端には25万個の種子が埋め込まれた。
その「毛」に包まれた「種の聖殿」は様々な設備を内包し、観客に憩いの空間を提供した。その開かれた公共空間は、緑に囲まれた小さな村のような存在となり、英国館のテーマそのものを強調することにもつながった。
万博開催中700万以上の人々が英国館を訪れ、最終的に200以上の出展パビリオンのなかで、万博最優秀賞であるパビリオン・デザイン部門の金賞を受賞した。
*
やはり、「中国2010年上海世博会官方图册」の方には、万博のカタログらしく、このパビリオンの趣旨や構成が主に解説してあり、今回の展覧会の解説ではパビリオンデザインについて主に説明されているのがわかる。
また、最後の「パビリオン・デザイン部門の金賞を受賞」というところだが、BIE(博覧会国際事務局)のホームページには下記のようにある。
*
Pavilion type
Self-Built Pavilion
Theme
Building on the Past, Shaping Our Future
Architect(s)
Heatherwick Studio
Size (m2)
6,000
Location
Zone C
Award
Gold – “Pavilion Design” category – Pavilions Category A
National Day
08 Sept 2010
*
つまり、「パビリオンカテゴリーA」(大型パビリオン)の「パビリオンデザイン」部門で金賞を受賞した、ということである。
今回の展覧会では、英国館のスケッチ、写真、模型、ビデオに加え、実際に植物の種子が入ったファイバーの「種の納められた先端部分(アクリル、種)」(Seed Tips, Acrylic and seed)も展示されていて、実際に訪れたあの英国館の感動を新たにした。
やはり、上海万博のほとんど全てのパビリオンを見た筆者の目から見ても、そのコンセプトを含め、他のパビリオンデザインとは一線を画す、万博160年の歴史の中でも特に異才を放つ、卓越したデザインのパビリオンだったといえよう。
上海万博の英国館について興味をお持ちの方は、この機会にぜひこの素晴らしい展覧会を訪れてみることをお勧めする。
ちなみに、TEDトークで、トーマス・ヘザウィック自身がこの英国館について話している映像がある。ご興味のある方はリンクから見てみてほしい。(7分30秒のあたりからです。)
* 「中国2010年上海世博会官方图册」「英国館」解説原文
英国馆旨在引导人们关注自然所扮演的角色,并思索如何利用传统和自然来解决社会、经济和环境给城市未来带来的挑战。
展馆核心“种子圣殿”蒲公英般的外形和独特的创意也巧妙地演绎了主题。
外部布满6万余根向各处伸展, 摇曳的亚克力杆触须,白天,触须像光纤一样传导自然光线,提供内部照明:夜间,触须内置的光源照亮整个建筑,成为一座奇特而夺目的未来之城。
展馆内容包括“绿色城市”、“开放城市”、“种子圣殿”、“活力城市”和“开放公园”等。
”绿色城市”展示了英国四大首府的城市景观,绿色植物、水景与建筑融为一体:“种子圣殿”展示从英国基尤千年种子银行提取的不同种类、形态各异的种子:“活力城市”陈列了许多活体植物和构想中的植物,展现了英国的创造力和高新技术,设想未来的城市在与自然的和谐交融中发展,在科技创新中充实和丰富。