「ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築」
六本木の森美術館(東京シティビュー)で開催中の「ヘザウィック・スタジオ展:共感する建築」に行ってきた。
開館時間:10:00~22:00(最終入館 21:00)
会場:東京シティビュー(六本木ヒルズ森タワー52階)
料金 ※専用オンラインサイトでチケットを購入すると( )の料金が適用されます。
[平日]
一般 2,000円(1,800円)
学生(高校・大学生)1,400円(1,300円)
子供(4歳~中学生)800円(700円)
シニア(65歳以上)1,700円(1,500円)
[土・日・休日]
一般 2,200円(2,000円)
学生(高校・大学生)1,500円(1,400円)
子供(4歳~中学生)900円(800円)
シニア(65歳以上)1,900円(1,700円)
チラシやwebには、『リトル・アイランド』という、水面に、植物を上に乗せたいくつもの松明状の構造体がにょきっと出ているニューヨークの不思議な建築の写真が使用されており興味をそそる。
実際に行ってみると、想像以上に数多くの作品の写真、模型、スケッチ、解説があり、写真も一部を除いて基本的には撮ってもいいということで、若い人を中心に数多くの来館者を集めていた。
建築といえば、筆者は30年くらい前から数年間、昨年末に亡くなられた磯崎新さん(1931 – 2022)とお付き合いする機会があり、直接いろいろなお話をお伺いする機会に恵まれた。
夏には磯崎さんの軽井沢の別荘にもお邪魔し、別荘の庭に設置された、奥様でアーティストの宮脇愛子さんの『うつろひ』や、磯崎さんの書斎(庭に別途建っている、小さな、ハシゴで2階に登っていくような東屋≒フォーリー的なもの、とおっしゃっていた)も見学させていただいた。
この磯崎さんとの出会いで、当時全く建築には素人だった筆者も、いろいろな勉強をすることができた。本もたくさん読んだ。さらに、万博についても磯崎さんからいろいろと教えていただいた。
磯崎さんのお話で印象的だった建築についてのお話には次のようなものがある(昔の記憶なので正確ではないが、概要は合っていると思う)。
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建築というのはすべての芸術を包含するものであること。音楽、美術、舞台芸術など、すべて建築、あるいはランドスケープデザインされたものの中で行われる。なので建築家はそのすべてをちゃんと勉強し、理解している必要がある。
今(1990年代当時)、世紀末になって、哲学者もこれから世の中をどうしていったらいいか匙を投げている状態であり、彼らから建築家がその包括的なリーダー役を担ってくれないかと言われた。そこで、建築家に加えて、世界の哲学者、アーティスト、音楽家などを集めて国際会議を毎年やることにした。
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それが、1991年からの第2の千年期末の11年、anyone, anywhereなどanyのつく11の単語をテーマとした国際会議を、磯崎さんやその国際的な友人たちが企画したAny Conferenceプロジェクトである。
筆者は、その第2回目のAnywhereをお手伝いさせていただいた。これは大分県湯布院の磯崎さんが設計した駅舎で行われたものである。
筆者が記憶しているだけでも、ジャック・デリダ氏、荒川修作氏、マドリン・ギンズ氏のような海外からの参加者に加え、日本からは、蓮實重彦氏、伊東豊雄氏、安藤忠雄氏、柄谷行人氏、そして進行を担当された浅田彰氏など錚々たるメンバーが参加された。
また、磯崎さんは1970年大阪万博でも丹下健三氏の元でお祭り広場のロボットなどを手掛けられており、1990年大阪花博にも総合プロデューサーとして関与されている。そのお話も直接お伺いすることができた。
しかし、磯崎さんの話はまた、別の機会に譲ろう。
圧倒的なヘザウィック・スタジオの作品群
今回はこの「ヘザウィック・スタジオ展」である。
磯崎さんはポストモダン建築をリードした建築家と言われ、相当に実験的な建築も手がけられた。だが、やはり、今回こうしてヘザウィック・スタジオの作品群を改めて目の当たりにすると、これはこれでその独特なデザインに圧倒される。
筆者から見ても、これはすごい!という作品のオンパレードである。
解説によると次のようにある。
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1994年にロンドンで設立されたヘザウィック・スタジオは、ニューヨーク、シンガポール、上海、香港など各地で革新的なプロジェクトを手掛け、現在、世界が最も注目するデザイン集団のひとつへと発展してきました。創設者トーマス・ヘザウィック(1970年、英国生まれ)は、子どもの頃、職人が作った小さなものに宿る魂に心を躍らせていたといいます。建築というい大きな建物、街や都市といった空間にも、その魂を込めることはできるのか。ヘザウィック・スタジオのデザインではこの問いがしばしば原点のひとつとなります。・・・・
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個人的に筆者が実際に見たことのあるものもいくつかあった。
ニューヨークの「ヴェッセル」
その一つは、2019年の春、新型コロナウィルスが世界を席巻する前年に行ったニューヨークの作品である。
ニューヨークは、もう30年以上前になるが、ちょっと住んでいたこともあり、その後もたまに訪れている都市である。2019年の訪問は約2年ぶりであった。
その旅の中の1日は、チェルシー地区を訪れた。
チェルシーの、元は精肉工場の倉庫外だったところを再開発した「チェルシー・マーケット」をちょっと覗いて、その後、廃線となっていた高架鉄道跡を再開発した「ハイライン(The High Line)」を歩く。
この「ハイライン」は高架鉄道跡を活用しているだけあって、空中の遊歩道といった趣で、いろんなアートや緑を楽しめる。30数年前筆者が住んでいた頃のマンハッタンでは、危なくてこんなところを歩くなどとても考えられなかったが、街が劇的に安全になってきていることが体感できる。
その「ハイライン」を北に歩いていくと、そのうち、「ハドソン・ヤード」と呼ばれるエリアにはいるが、そこに、独特なデザインの、建物なのか、階段なのか、オブジェなのか、なにやら銅色っぽいものが見えてくる。
これが、ヘザウィック・スタジオの設計である「ヴェッセル(Vessel)」である。
Googleマップによると、「基本情報」のところに、「ミツバチの巣の形をした屋外アトラクションで、16 階建てで 80 の踊り場があり、階段で登ることができる。」とある。
一方、今回の展覧会の解説によると、
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・・・インドのラージャスターンにある階段井戸、とりわけその繰り返される階段と踊り場の視覚的効果に着想を得て、《ヴェッセル》は、合計約2,500段、154個の階段のまとまり、80箇所の踊り場、地上16階の登る構造体となった。人々は上に登って開発中の新しいエリアを見下ろし、ハドソン川とマンハッタンの眺望も楽しむことができる・・・
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とある。
竣工は2019年。ということは、筆者が訪れたときはできたばっかりの時だったのだろう。
ひと目見たら、あれは何だろう?と記憶から絶対に消えない建築物である。
ニューヨーク在住の友人に聞くと、この「ヴェッセル」から飛び降り自殺をする人が多い、ということだったが、今は安全策が講じられているのだろうか。
ロンドン・オリンピックの聖火台とロンドン ルートマスター・バス
さて、この「ヴェッセル」の他にも、筆者が最近では2019年秋に訪れたロンドンに関するものもあった。
一つは2012年ロンドンオリンピックの聖火台のデザイン、もう一つはロンドンのルートマスター・バスの新しいデザインである。
筆者もこの新しいデザインのバスに乗った記憶がある。なるほど、これもヘザウィックのデザインだったのだ。
また、東京でも、この展覧会会場「東京シティビュー」の窓から見下ろせるところに「麻布台ヒルズ」が建築中である。竣工は2023年(秋)予定。
解説によると、「《麻布台ヒルズ/低層部》は、スタジオにとって日本で最初のプロジェクトとなる。」ということらしい。
これも相当に独特なデザインである。完成が楽しみである。
さて、今回はヘザウィック・スタジオ展の①として筆者の印象に残った展示をご紹介した。
しかし、もちろんこの展覧会に行こうと思ったきっかけは万博関連の展示である。
それについては次回、ゆっくりとご紹介することにしよう。