<18> 2023年竣工「東急歌舞伎町タワー」に万博を想う

1876年フィラデルフィア万博
歌舞伎町タワー KABUKICHO TOWER photo©️Nobuaki Kyushima

久々に新宿で待ち合わせ

友人と待ち合わせて新宿で食事をすることになった。
新宿にはそういうことでもないとなかなか訪れない。
以前とずいぶんと雰囲気の変わった紀伊国屋書店で待ち合わせて、近くで一杯飲みながら食事。

そういえば、せっかく新宿まで来たのだから、最近オープンした「東急歌舞伎町タワー」に行ってみたい、という話をし、すでに行ったことがあるという友人をガイドにして歌舞伎町へと向かう。

久しぶりの歌舞伎町

歌舞伎町に行くのはかれこれ15年ぶりくらいではないだろうか。

以前、2010年上海万博の件でお付き合いしていた中国の国有企業の幹部御一行5〜6名様が歌舞伎町に行ってみたいというのでご案内した(というかご案内できるような知見もないので、街をうろついて雰囲気を味わってもらった)のが最後だと思う。

本当に久しぶりだ。また来ることがあるとは、正直思わなかった。

しかし、街並みは相変わらずの混沌ぶりだ。中国の国有企業幹部が行ってみたいというくらいだから、逆にいうとそれなりの観光資源になっているのかもしれない。以前の香港や上海といったカオス的な雑踏を好む人たちには、歌舞伎町は相当にパワフルなスポットであるといえよう。

とにかく、外国の人たちが多い。友人によると、最近は強引な客引きが禁止されて、これでも歩きやすくなっているらしい。

そんな中に「東急歌舞伎町タワー」という48階建ての近代ビルが立ったわけだから、そのあたりは治安も良くなるに違いない、と思っていたが、周囲はあいわらずな感じだった。好きな人は好きな雰囲気、そうでない人にとっては一刻も早く立ち去りたい、そんな感じだろう。

東急歌舞伎町タワー
KABUKICHO TOWER

さて、この「東急歌舞伎町タワー」である。

Wikiによると地上48階地下5階建て、高さ約225m。敷地面積約4,600㎡。

設計は久米設計・東急コンサルタントJV、施工は清水建設・東急建設JVとのことである。「都市再生特別地区」に指定されている。

今年、2023年1月11日に竣工し、同年4月14日に開業した。最近である。

中には、オフィスや住宅がなく、ホテル、映画館、劇場、レストラン、カフェといったエンターテインメント施設等が入っている。スターバックスも1階〜2階にわたる大型店が入っていた。

外装デザインは、永山祐子建築設計が担当

wikiには、外装デザインは、永山祐子建築設計が担当、とある。

この永山祐子氏(1975- )は今、大変活躍している建築家である。

今年2023年の5月14日にはMBSの「情熱大陸」にも登場した。

この番組でも触れられていたが、永山氏は4年で独立しなければならないという条件の「青木淳建築計画事務所」につとめ、それから自分の建築設計事務所を立ち上げたとのことである。そしてこの青木淳氏は、筆者がお付き合いのあった磯崎新氏(1931 – 2022)の事務所「磯崎アトリエ」に以前所属していた建築家でもある。

最近では、2020年ドバイ万博(コロナ禍により実際の開催は2021年)の日本館のデザインを手がけた。その様子は「情熱大陸」でも取り上げられていた。
(永山氏が手がけた日本館のデザインについて)「日本と中東の文化に通じる幾何学模様が好評を博したという」
というナレーションが流れていた。

2025年大阪・関西万博「パナソニック・パビリオン」

また、2025年大阪・関西万博では、パナソニック・パビリオンも手がける。上記「情熱大陸」では、

「・・・採用されたのは、シャボン玉が集まったようなファサードのパビリオン。光を反射する膜に風をはらませ、ファンタジックな世界を作ろうと考えていた。」

というナレーションが流れていた。

パナソニックのパビリオンは「ノモの国」と命名されている。

パビリオンのコンセプトは「解き放て。こころとからだとじぶんとせかい」。

<「ノモの国」の「ノモ」とは、「モノ」を反転させた造語で、さまざまなモノはココロの持ちようによってその捉え方が変わるものであり、モノはココロを写すうつし鏡であるという、パナソニックが導き出したコンセプトに基づきます。>

ということらしい。

どんなパビリオンになるのか楽しみである。

「Women’s Pavilion」

そして今年2023年3月に記者発表があったが、「ウーマンズ・パビリオンWomen’s Pavilion」も手がけるという。

2025年万博協会のプレスリリースによると、次のようにある。


国際女性デーである3月8日(水)、リシュモン ジャパン株式会社 カルティエ(カルティエ ジャパン)は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の会場において政府及び2025年日本国際博覧会協会と連携して出展するパビリオン「女性活躍推進館(仮称)」の正式名称を、「ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier」(以下、「ウーマンズ パビリオン」)に決定し、構想概要などを発表しました。
「ウーマンズ パビリオン」は、いのち輝く未来のためにすべての人々が平等で、尊敬し合い、それぞれの能⼒を発揮できるよりよい世界をデザインすることを⽬指します。また、パビリオン建築では、ドバイ万博の日本館で使用したファサード資材をリユースして引き継ぎます。
このパビリオンでの体験などを通して、来場者の方々に学びや気づきを与え、大阪・関西万博の魅力の一つとして欠かせないものになるよう、検討を進めていきます。

そして、建築デザインの、リードアーキテクト(建築設計を担当)には永山祐子氏の名前がある。

これはこれで楽しみなパビリオンである。しかもドバイ万博の日本館のファサードのリユースということで、こういった環境に配慮した企画は今後も万博で継承していくべき試みだろう。

1876年フィラデルフィア万博の「Women’s Pavilion」

さて、この「Women’s Pavilion」という名称だが、これで思い出す万博がある。

実は、今から147年前の1876年に米国フィラデルフィアで行われた独立100周年記念万国博覧会(1876年フィラデルフィア万博 Centennial Exhibition of Arts, Manufactures, and Products of the Soil and Mine)において、すでにWomen’s Pavilionが出展されていたのである。

Women’s Pavilion
1876 Philadelphia Expo

この1876年フィラデルフィア万博は通称「ザ・センテニアル」と呼ばれ、アメリカ独立宣言100周年を祝う万博であった。

この万博では、1851年ロンドン万博の時のように「クリスタル・パレス」といったメインの建築物の中ですべてを展示する方式から、本格的な個別パビリオン方式がとられ、合計250館におよぶパビリオンが建てられたものであった。

その中の一つに「Women’s Pavilion」があった。

この「Women’s Pavilion」こそ、フェミニズム運動の拠点であり、ギレスピーという女性が代表に選ばれた「婦人百年祭実行委員会 (The Women’s Centennial Executive Committee」によって企画されたパビリオンだったのである。

このエリザベス・デュアン・ギレスピー(1821~1901)という人物は、凧による雷の放電実験をおこない、さらにアメリカ独立宣言書の起草も手がけた、あのベンジャミン・フランクリン(1706 – 1790)の曾孫である。

ギレスピーの「Women’s Pavilion」は、国でもなく、自治体でも企業でもない、今でいうNPO(非営利団体)的な、市民の有志によるパビリオンだった。

この「Women’s Pavilion」実現のために、ギレスピーは、地方にさまざまな委員会を作ったり、資金集めをしたりと精力的に活動した。

当時のアメリカでも、ごく一部の州にしか女性にはまだ選挙権がなかったが、すでに労働力の20パーセントは女性によってまかなわれていた。

このパビリオンのすべての展示品は女性によって作られたもの、または女性によって動かされていたもので、あらゆる分野での女性の能力を示すためのものだった。針仕事の作品などもあったが、カナダの少女が蒸気エンジンを動かし、そのエンジンによってプレス機などが作動し、そのプレス機では「女性のための新世紀」という新聞が印刷されるといった趣向も凝らされていた。

ギレスピーが代表を務めた「婦人百年祭実行委員会」は、アメリカ市民運動の、そしてフェミニズム運動の始まりともいえるものであった。

ワーグナーも参画

そして、その依頼によって、ドイツのリヒャルト・ワーグナー(1813~1883)が作曲したのが、『アメリカ独立100周年記念行進曲(Centennial Inauguration March』だった。「婦人百年祭実行委員会」は、ドイツ生まれのアメリカの指揮者セオドア・トーマスという人物の推薦で、ワーグナーに、5月10日の万博開会式のための行進曲を依頼したのだった。

この『アメリカ独立100周年記念行進曲』は、現在でも聴くことができる。なかなかわかりやすい曲だが、一般的にはワーグナーの傑作の部類には入らないようだ。しかし、「婦人百年祭実行委員会」の委員たちは大変喜んだし、万博の開会式に演奏されたときには、大喝采を浴びた。

また、指揮者トーマスはこの曲を気に入り、万博開催年の1876年の夏に何度か演奏したのち、10月にはニューヨークのコンサートシリーズでも演奏し、さらに11月10日の万博閉会式でも再び演奏しているのである。

このように1876年の「Women’s Pavilion」は多くの話題を残した。

2023年竣工の近代的な高層ビル「東急歌舞伎町タワー」をみて、約150年前に行われた1876年フィラデルフィア万博まで思いを馳せることになってしまった。

「東急歌舞伎町タワー」を設計した永山祐子氏がデザインする2025年大阪・関西万博の「Women’s Pavilion」が、どんな話題で万博史にその名を残すのか、今からとても楽しみである。

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