『ミドルトン一家、ニューヨーク万博に行く』というDVD
アマゾンを物色していたところ、『ミドルトン一家、ニューヨーク万博に行く』というDVDを発見した。
カバーには「エレクトロ」の写真がある。
この「エレクトロ」というのはウェスティングハウスがニューヨーク万博に出展していた人型ロボットである。
このDVDについて調べると、そのウェスティングハウスのプロモーションとして制作された映画らしい。
これは面白そうである。
早速、注文してみる。
次の日に届いた。
英語のタイトルは次のようである。
THE MIDDLETON FAMILY AT THE NEW YORK WORLD’S FAIR
1939/40年ニューヨーク万博
プロモーション用の映画ではあるが、一応物語になっている。
インディアナ州に住んでいる中流階級の一家(なので「ミドルトン」という名前になっている)が万博を見るためにニューヨークにやってくるところから話は始まる。
その一家の年頃の娘が、幼馴染の男性(ウェスティングハウスのパビリオンの解説係になっている)と、資本主義に何かと文句をつける、今付き合っている男性とどちらを選ぶか、のような話が大筋となっている。
そしてもちろん一家はニューヨーク万博へ何度も行く。
ここでいうニューヨーク万博とは1939年のニューヨーク万博である。
過去ニューヨークでは3回万博が開催されている。
1939/40年ニューヨーク万博(会場:フラッシング・メドーズ・コロナ・パーク)
1964/65年ニューヨーク万博(会場:フラッシング・メドーズ・コロナ・パーク)
の3回である。
このうち、ミドルトン一家が行った万博は、1939/40年ニューヨーク万博の1939年バージョンである。
正式名称は「ニューヨーク万国博覧会」(New York World’s Fair 1939-1940)
会期は1939年4月30日~10月31日、1940年5月11日~10月27日の2期にわたるものであった。
テーマは1939年が「明日の世界」(The World of Tomorrow)、1949年が「平和と自由のために」(For Peace and Freedom)だった。
会場は、現在、フラッシング・メドーズ・コロナ・パークと呼ばれている公園である。
場所的には、現在のラ・ガーディア空港に近く、もともとコロナ・ダンプと呼ばれるゴミ捨て場の湿地帯だったところだ。
約210メートルの高さを誇る三角錐「トライロン」と、直径約60メートルの巨大な球体「ペリスフィア」をシンボルとするその会場は広大で、面積約500ヘクタール。
広さでは1904年セントルイス万博(508ヘクタール)にわずかにおよばず万博史上第2位(当時)、という規模を誇っていた。
この万博は第二次世界大戦に入る時期の万博ではあったが、2年の会期あわせて4493万人という多くの観客を集めた大規模な万博であった。
1939年ニューヨーク万博のウェスティングハウスパビリオン
この映画のミドルトン一家は何度もこの1939年ニューヨーク万博会場を訪れる。
映画の最初こそ、万博のシンボルである「トライロン」と「ペリスフィア」が出てくるが、当然ながら、ここで彼らがメインに訪れるのは、ほとんどがウェスティングハウスのパビリオンである。
5000年後まで開けてはならないタイムカプセル
まず、タイムカプセルが紹介される。
これは、長さ2.18メートル、直径20センチの細長い円筒ロケット形をしており、5000年後まで開けてはならないというもので、地下50フィート(約15m)のところに今も埋められている。
このタイムカプセルは万博が開催される前の年の1938年9月23日、ニューヨーク万博のオープン6カ月前に「ウェスティングハウス」パビリオンの敷地に埋められたものである。
この映画では、ウェスティングハウスのパビリオン内のタイムカプセルの展示の前の解説が紹介される。
また、カプセルが「キューパロイ」という強い鉱物で出来ていることが紹介される。これは鉄と同じくらい頑丈な銅の合金、ということである。
また、このカプセルな中身は書物に残してあって世界各地の図書館や美術館に送り届けられているということも紹介される。
また、カプセルの横の棚には収蔵物の一例が展示されている。
筆者の持つ資料では、『ブリタニカ』のマイクロフィルム、紙幣、トランプとその遊び方、電気カミソリなどが収納されたという記録がある。
この映画では、マイクロフィルムについて主に紹介されている。
またディズニーのミッキー・マウスも入っていることが紹介されている。
ちなみに、このウェスティングハウスのタイムカプセルの企画は、続く1964/65年のニューヨーク万博でも行われ、この2つのカプセルは今でもこの公園内に埋まっている。
このあたりの話は現地視察も含めて
でご紹介したので、ぜひご覧いただきたい。
電気を使った技術の紹介
そのほか、当時は珍しかったテレビカメラ、幽霊自転車(Phantocycle)という光線と光電子電池でバランスを保つ自転車、オシロスコープ、そして食器洗浄機などの電気を使った技術が紹介されている。
そもそもウェスティングハウスは1893年シカゴ万博でその交流技術が会場内で採用されたという万博的にも歴史の長い会社である。
その時はエジソンの直流方式との争いとなり、結果、ウェスティングハウスの交流が採用され、その後は交流がメジャーになっていくことになった。
この映画でも電気が可能にする多くの技術が紹介されるが、それによって職を奪われる人が多いのでは、といった疑問を呈する人も紹介される。
しかし、過去のデータなどから、むしろ電気を使った技術は飛躍的に労働需要を増大させる、という解説がなされることになる。
このあたりもこの映画の「ウェスティングハウスのプロモーション」という性格上、わかりやすい作りになっている。
人型ロボット「エレクトロ」
そしてメインが人型ロボット「エレクトロ」である。
このロボットは、身長約2.4メートルで、歩く、話す、見る、歌う、臭いをかぐ、指で数える、腕を上げ下げするという動作ができたという。
この映画では、歩く、話す、見る、指で数える、腕を上げ下げする、タバコを吸う、といった動作が動画で確認できる。
この「エレクトロ」を現在の展示サイドの視点で見ると、なかなか危なそうな動きではあるが、映画の中でも多くの観客を集め、人気だったことがうかがえる。
また、「エレクトロ」は1940年ニューヨーク万博ではロボット犬「スパーコ」とともに再登場した。
日本で開催された万博でもロボットは人気である。
1985年つくば科学博、2005年「愛・地球博」などでも多くのロボットが紹介され人気を集めた。
最近のAIの進歩によって、2025年大阪・関西万博ではどんな革新的なロボットが紹介されるか楽しみである。
85年前に開催された1939年ニューヨーク万博。
その様子を映像で見ることができるのは貴重な体験だ。
当時の世の中の雰囲気、万博の様子など、百聞は一見にしかず、と感じさせるおすすめの一本である。