「万博と赤十字〜日赤発祥の原点は万博にあり〜」展
さて、121話からご紹介しているこの展覧会だが、今回はその内容についてご紹介しよう。
展覧会スペースはそう広いというものでもないが、内容は充実している。
「ソルフェリーノの思い出」初版
まず、目に飛び込んできたのは「ソルフェリーノの思い出」の初版である。
アンリ・デュナン(1828~1910)は、1859年のイタリア統一戦争の際、ソルフェリーノの戦場を旅して、たくさんの戦傷病者が医療を受けられない悲惨さに衝撃を受けた、という話は前回ご紹介した。
この体験が、彼が戦時の傷病者を救援する国際運動を起こし、人道的な国際条約の締結を求めるようになったきっかけになった。
それが国際赤十字として結実することになるのである。
この「ソルフェリーノの思い出」はその時の体験を書いたもので、アンリ・デュナンが1862年に著した。
これは、デュナンが自費出版したもので、今回展示されているのはその初版1600部のうちの一冊ということで、大変貴重なものだ。
この展覧会では、アンリ・デュナン直筆の「ソルフェリーノの思い出」清書原稿の一文も展示されているが、そこには次のように彼の思いが書かれている。
ちなみに、この「ソルフェリーノの戦い」はウィキペディアによると次のような戦いであった。
兵力はフランス・サルデーニャ軍、オーストリア軍ともに10万人を超えた。
死亡者は合計5000以上、負傷者は合計2万人を超えた。
非常に凄惨な戦いであったことがうかがえる。
この1冊の本「ソルフェリーノの思い出」が原動力となって国際赤十字は創設されることになる。
そして、1867年パリ万博に初めてパビリオンを出すことになったのである。
今回の展覧会では「1867年パリ万国博覧会 絵入り新聞 illustrée」(”L’Exposition universelle de 1867 : illustrée”)も展示されている。
そこには万博の歴史書でよく見る1867年パリ万博に出展された国際赤十字館のイラストが描かれている。
そしてこのキャプションには、
SOCIÉTÉ INTERNATIONALE POUR LES SECOURS AUX BLESSÉS DES ARMÉES DE TERRE ET DE MER.
(「陸海軍傷病者国際救護協会」)
と書かれている。
この組織は、1863年にスイスのジュネーブで設立された赤十字の前身となる団体であり、1867年にはその名前で出展していたことがわかる。
しかし、このイラストによると、すでに赤十字のマークは使用されているようである。
同じ1867年パリ万博美術展でグランプリを受賞した作品とは
ちなみに、国際赤十字が初めて万博に出展した1867年パリ万博では、大規模な美術展も開催されていた。
その万博に出展していたのが、メソニエ、カバネル、ジェロームといった伝統的な手法の画家たちであった。
このうち、エルネスト・メソニエ(1815~1891)が出展したのが
『ソルフェリーノの戦場におけるナポレオン3世』
という作品だった。
この作品はソルフェニーノの戦場に立つナポレオン3世を讃えるもので、なんとグランプリを受賞している。
同じ万博会場で、アンリ・デュナンは戦争によって被害を受けた人々を救う活動である国際赤十字を紹介し、メソニエはその戦争を引き起こした一方の指導者であるナポレオン3世を讃美する。そしてそれがグランプリを受賞する。
万博の主催がナポレオン3世ということでそうなるのも仕方がないのかもしれないが、万博の皮肉な現実も垣間見えるのである。 (つづく)