<10>2つの国宝『普賢菩薩像』(東京国立博物館、大倉集古館)

パリ万博
大倉集古館パンフレット Okura Museum of Art Pamphlet

東博(東京国立博物館)に行ってきた。

先日(<1>で紹介した通り)、「ニール号引き上げ品」の取材で行ったばかりだが、また行ってきた。

実はニール号の展示を見るために訪れた時に、「国立博物館メンバーズパス」というものを購入した。これは1年間有効のパスで東京国立博物館、のほか、京都、奈良、九州の各国立博物館の「平常展」に無料で入場できるというもの。
多分、ほとんど東博しか行かないだろうが、本館の「平常展」である「総合文化展」は国宝や重要文化財も展示される充実したものなので、相当に楽しめる。

東博のホームページによると、

「令和3年4月1日(木)より、東京国立博物館の新会員制度がスタートしました」

ということで、2種類の会員制度ができたらしい。

一つは、「友の会」。年会費は7,000円で、国立博物館4館の総合文化展(平常展)が何度でも観覧でき、プラス、特別展無料観覧券3枚がついている、というもの。さらに、ミュージアムシアター無料観覧券1枚の提供や、レストラン、カフェ、ミュージアムショップの割引もある。
また、京都・奈良・九州国立博物館の特別展を割引料金(団体料金)で観覧できるという。

もう一つが「国立博物館メンバーズパス」。年会費は2,500円(学生1,200円)で、国立博物館4館の総合文化展(平常展)が何度でも観覧でき、また、京都・奈良・九州国立博物館の特別展を割引料金(団体料金)で観覧できるというものだ。
「友の会」にある、特別展無料観覧券3枚、ミュージアムシアター無料観覧券1枚の提供や、レストラン、カフェ、ミュージアムショップの割引は含まれていない。

筆者は、前回「国立博物館メンバーズパス」(年会費2,500円)を買った。普通に買うと、総合文化展観覧料は1,000円(学生500円)なので、3回以上いけば、こちらの方がお得である。

というわけで、再び東博へ。

東京国立博物館
Tokyo National Museum (Tohaku)

国宝『普賢菩薩像』

今回の主な目的は4月11日〜5月7日まで展示中の「普賢菩薩像」である。

『普賢菩薩像』 平安時代・12世紀
“The Bodhisattva Fugen ” Heian Period, 12th century

この作品は筆者は子供の頃から知っていた。というのも、小学生時代にちょっと切手を集めており、国宝シリーズにこの作品があったのである。小学生の頃、いろいろな国宝や葛飾北斎・歌川広重の浮世絵などはほぼ切手から学んだといっても過言ではない。特にこの「普賢菩薩像」の切手は当時は結構人気で、小学生にしては高い値段で入手したと記憶している。(先ほど探してみたら、まだ万博亭に存在していた)

普賢菩薩像切手
Postage Stamp of “Fugen Bosatsu(The Bodhisattva Fugen)”

さて、この「普賢菩薩像」、国宝である。平安時代12世紀の作品であり、東博ホームページの解説によると、

「普賢菩薩は、濁って乱れきった世の中において、仏の究極の教えといわれる『法華経』を信仰する人の前に現れ、励まし、守護する存在として『法華経』に登場します。」

とある。
今回の展示は、3年に及ぶ解体修理が無事完了した、ということで公開されたものらしい。

「千九百年巴里萬國博覧会事務局報告」

これほどの国宝なら万博にも出品されたのでは?と思い、調べてみることにした。

過去の万博の中で、1900年パリ万博の「千九百年巴里萬國博覧会事務局報告」(国会図書館デジタルコレクション)を調べてみることにした。

なぜなら、この時は、林忠正が事務官長として日本出展をとりしきり、とりわけ、日本の系統だった美術の展示に力を入れ、多くの日本の古美術を出品したという記録があることを覚えていたので、一番日本の古美術が出品された可能性が高いと睨んだのだ。

「事務局報告を調べてみる」、と簡単に書いてはみたが、これを調べるのはそうとうにきつい。目が痛くなるが、昔のつぶれかけた字を追いかけながら、どこにそのデータがあるか頑張って調べてみる。結構時間がかかる作業である。

しかし、ようやく見つけた。

「事務局報告」の839ページ目の最後の方からが古美術の出品物リストになっている。

1ページに17項目の作品リストが載っているが、それが37ページと半分ある。最後の半分のところは7項目ある。

ということは、636作品!がパリまで運ばれて展示されたことになる。

しかも、このリストには1項目として出ていても、その下に2枚、とか 例えば「『番茶入』六十八個」、とかあるので、本当の作品数はもっと多かったことになる。

実際、「事務局報告」839ページには、

「・・・古美術品の点数は絵書164点、木彫品25点、金属彫刻物163点、蒔絵品130点、陶磁器273点、織物(中略)36点・・・」(漢字やカタカナは現代語に筆者が変換)とある。

これは合計すると791点となるのである。

これは相当に見応えのある展覧会だったことだろう。

「千九百年巴里萬國博覧会事務局報告」(部分)
“1900 Paris World Exposition Secretariat Report” (Part)

「千九百年巴里萬國博覧会事務局報告」(部分)
“1900 Paris World Exposition Secretariat Report” (Part)

しかし、この、日本から出展された多数の美術品のリストには「普賢菩薩像」は見当たらない。「普賢延命像」というものや、木彫の「普賢菩薩像」(大倉喜八郎氏が出品)というものはあるが、「絵書」としての「普賢菩薩像」は展示されなかった模様である。

1900年パリ万博に出品された国宝「普賢菩薩騎象像」(大倉集古館)

ちなみに、この大倉喜八郎氏が出品した木彫りの「普賢菩薩像」は、現在、大倉集古館にある国宝「普賢菩薩騎象像」だと思われる。

WANDER国宝というサイトによると、


平安時代後期に作られた普賢普薩が象に乗った木像で、貴族趣味的で優美な作品である。
京都周辺で円派の仏師により作られ、どこかの寺院で釈迦如来の脇侍としてまつられていたと考えられるが、来歴などは不明。
大倉財閥の創業者である大倉喜八郎氏が、東京国立博物館の初代館長町田久成氏から譲り受けたという。

とある。

また、大倉集古館が昨年から今年の1月までこの国宝「普賢菩薩騎象像」を公開したときのパンフレットには、この国宝「普賢菩薩騎象像」の写真とともに


大倉集古館を設立した実業家・大倉喜八郎は、明治初年の廃仏棄釈によって仏像や仏画が、寺社から 流出し廃棄される惨状を憂いて、それら文化財の保護に尽力しました 。喜八郎が蒐集した仏教美術品 は、 釈迦信仰をはじめ、密教、浄土教信仰が生み出した美麗のほとけなど、中世から近世にいたる優品が数多くみとめられます。

という解説がある。
東博の「普賢菩薩像」はパリ万博には出品されていない模様だが、調べていくうちに、実際に出品されたであろう木彫りの国宝「普賢菩薩騎象像」にたどりつくことができた。

大倉集古館パンフレット
Okura Museum of Art Pamphlet

 

さて、事務局報告の出品リストに戻ると、「絵書」の出品リストの中には、我々も知る「雪舟筆四季山水図」なども含まれており、この展覧会は空前絶後のものだったのではないかと思われる。

また、出品者も、日本各地のお寺のほか、「東京帝室博物館」(今の東博)のものも多いが、井上馨、岩崎彌之助といった当時の実力者からの出品も多い。あとは林忠正、佐野常民といった名前も見受けられる。

東博所蔵「普賢菩薩像」の1900年パリ万博出展は認められなかったが、また一つ万博の歴史を垣間見ることができた一日だった。

そして、「普賢菩薩像」を堪能した後は、1893年シカゴ万博関連展示を調べてみることにする。(続く)

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